経営者なら知っておきたい、会社分割のスキームとは?

経営者なら知っておきたい、会社分割のスキームとは?

企業の国際競争力強化を目的とした法整備の一環として、2001年4月施行の改正商法で新設されたのが「会社分割制度」です。同制度新設により、企業は優良事業の分離・独立、重複事業の整理、関連事業の統合、不採算事業分離などの組織再編を迅速に行えるようになりました。自社の経営強化を図るために経営者が知っておきたい会社分割制度のスキームとメリット・デメリットについてご紹介します。

企業再生と成長戦略の要石・会社分割制度とは何か?

会社分割制度とは、企業が事業の一部を分離・独立させたり、他企業へ承継させたりできる制度のことで、事業の分離・独立や他企業への事業承継を容易にすることにより組織再編を加速させ、企業の経営スピードアップを図り、その企業の市場競争力を強化することを目的としています。

 

会社分割制度は、例えば、

  • 成長事業を分離・独立させ、その成長を加速する
  • 不採算事業を切り離して他企業へ承継し、経営赤字リスクを排除する
  • 持株会社化による事業統合で社内の重複事業を整理・再編し、事業の機動力と事業間のシナジー効果を高める

以上の三点をスムーズに行えることもあり、従来のM&Aスキームと比べ企業再生がしやすいとされています。

 

会社分割制度には「新設分割」と「吸収分割」2種類があります。

新設分割は、新会社を設立し、その会社へ自社から切り離した事業を承継させる手法です。優良・成長部門の独立に適しており、成長戦略向けのスキームとされています。

吸収分割は、既存の他企業へ自社から切り離した事業を承継させる手法です。社内の重複事業の整理・再編、不採算事業の分離などに適しており、企業再生向けのスキームとされています。

さらに、会社分割は「人的分割」と「物的分割」に区分されます。

人的分割は、事業承継会社がその対価として発行する株式を分割会社の株主へ割り当てて、会社分割の経済的利益を株主が直接受けられる手法とされています。

一方、物的分割は、事業承継会社がその対価として発行する株式を、分割会社自体へ割り当てる手法です。物的分割は、現物出資等によって行われていた会社分割制度創設以前の分割手続きを効率化し、会社分割を容易にした手法とされています。

 

会社分割制度とよく似たM&Aのスキームに「合併」と「事業譲渡」があります。各々の違いは次の通りです。

合併と会社分割の違い

合併には、既存企業2社が共同で新会社を設立して合併する「新設合併」と、どちらかの企業が存続し、片方の会社と合併する「吸収合併」の2種類があります。この制度も会社分割とよく似ています。

合併は制度的には「包括承継」であり、消滅した企業の債務を含め一切合切を引き継ぐのが特徴です。会社分割も制度的には包括承継になります。

ただ、両者の大きな違いは、「事業承継の範囲を限定できるか否か」にあります。

合併の場合は承継範囲の限定はできず、正に一切合切の承継になります。対して、会社分割の場合は、成長事業・有望事業等の「承継したい事業だけを」を承継できます。この承継範囲の限定は、「偶発債務リスク」回避効果があるとされています。

合併においては、合併後に「簿外債務や保証債務が判明した。欠陥製品が判明し、そのために製造物責任が問われた」などの偶発債務は、すべて合併会社が負わなければなりません。

しかし会社分割においては、承継事業を限定できるうえ、承継事業の債権・債務も事前に分割会社と調整できるので、偶発債務リスク回避が可能になります。

事業譲渡と会社分割の違い

事業譲渡と会社分割も制度的なスキームはよく似ています。

事業譲渡は、事業の全部または一部を他企業へ譲渡するM&Aスキームで、譲渡の対価は現金支払いか株式割当てになります。これは会社分割と同じです。「事業の承継範囲を限定できる」点も会社分割と同じスキームです。

ただ、両者の大きな違いは、「承継事業や権利・義務の組合せを自由にできるか否か」にあります。

事業譲渡の場合、事業を譲渡しようと企業の債務を事業と一緒に移転するには、債権者の同意が必要です。債権者の同意を得られなければ、事業譲渡に成功しても企業の債務は依然として残ります。

さらに事業譲渡の場合、譲渡の対象は「事業の一切合切」です。したがって事業資産・債権・債務、事業に付随する権利・義務、のれんなどを包括的に譲渡することになります。

これに対して会社分割の場合は、事業や権利・義務の自由な組合せが可能です。例えば事業Aと事業Bを組み合わせる、事業資産・債権・債務は承継せず事業の権利・義務・契約だけを承継するなどが可能です。

新設分割の手続きとメリット・デメリット

新設分割と吸収分割は事業承継先が異なるので、分割手続きも多少異なります。

新設分割の場合の手続きは、基本的に次の手順で進められます。

1.会社分割計画作成

「会社分割計画書」を作成するにあたり、主な計画事項は次の通りです。

  • 新設会社の目的・商号・本社所在地・発行株式総数
  • 新設会社の定款
  • 会社分割時の対価・新設会社の資本金・準備金
  • 新設会社へ移転する資産・債務・権利・義務・契約・のれん

2.事前開示書面の作成と備置

分割会社と新設会社は会社法の規定事項を記載した「事前開示書面」を作成し、それぞれの本社に備置します。

3.債権者保護手続き

債権者保護のため、債権者に対して「官報公告」と「個別催告」を行います。なお、公告・催告には「債権者は一定期間内に会社分割に異議を述べられる」旨を明記します。

4.株主総会の特別決議による承認

株主総会の特別決議で承認を得ます。

5.登記申請

分割会社と新設会社が同時に登記申請(※)をします。

6.事後開示書面の作成と備置

分割会社と新設会社は会社法の規定事項を記載した「事後開示書面」を作成し、それぞれの本社に備置します。

※新設分割は、登記申請の完了により効力が発生します。したがって、登記申請完了日が新設分割の効力発生日になります。

 

新設分割のメリットは次の通りです。

事業資産・契約等の移転が容易

新設分割の場合、債権者個別の承認を得なくても事業資産・契約等をすべて新設会社へ移転できます。他のM&Aスキームで事業承継する場合、債権・債務の移転手続きや契約の再締結が必要ですが、新設分割の場合は不要になります。

分割会社から引き継いだ資本準備金・資本剰余金の振分けが自由

新設会社は分割会社から承継した事業の株主資本相当額の範囲内において、資本金や資本準備金、その他資本剰余金の振分けが自由にできます。これにより新設会社の経営自由度を確保できます。

資産の含み益に課税されない

適格要件を満たした新設分割は、資産の含み益に課税されません。その分、新設会社はスタートアップ時の税負担が軽くなります。

 

一方、新設分割のデメリットは次の通りです。

税務処理が煩雑

新設分割の場合は分割対価、資産等引継、分割会社と新設会社の事業関係および支配関係、事業規模、社員引継ぎなどの適格・非適格要件が税法で細かく規定されているので、税務処理が煩雑になります。

新設会社が非上場の場合、株式売却ができない

新設会社が非上場企業の場合、分割会社が新設分割の対価として非公開株式割当てを受けた際は、証券市場でその株式を売却できないので、分割会社は新設分割によるキャッシュを獲得できません。

吸収分割の手続きとメリット・デメリット

吸収分割の手続きは、基本的に次の手順で進められます。

1.契約締結

分割会社と事業承継会社の間で「吸収分割契約」を締結します。主な契約事項は次の通りです。

  • 分割会社と事業承継会社それぞれの商号と住所
  • 会社分割の対象となる資産・債務・権利・義務・契約・のれんなどに関する事項
  • 対価についての事項
  • 効力発生日

2.事前開示書面の備置

分割会社と事業承継会社は、会社法の規定事項を記載した「事前開示書面」を作成し、それぞれの本社に備置します。

3.債権者保護手続き

債権者保護のため、債権者に対して「官報公告」と「個別催告」を行います。 なお、公告・催告には「債権者は一定期間内に会社分割に異議を述べられる」旨を明記します。

4.株主総会の特別決議による承認

株主総会の特別決議で承認を得ます。

5.登記申請

分割会社と事業承継会社が同時に登記申請(※)をします。

6.事後開示書面の備置

分割会社と事業承継会社は、会社法の規定事項を記載した「事後開示書面」を作成し、それぞれの本社に備置します。

※吸収分割の場合は「契約締結」の際に定めた期日が効力発生日になります。会社法により登記申請は「効力発生日より2週間以内」と期限が定められています。

 

吸収分割のメリットは次の通りです。

組織や株主の整理をしやすい

事業を多角的に展開している企業の場合、必然的に組織と事業の一部が重複するなど複雑化し、経営効率化の阻害要因になっています。こうした企業の複雑化した組織と事業の整理が容易になります。

また、事業多角化の結果として多数の株主が存在する企業では、株主によって注力したい事業が異なることが多く、株主同士の意見が分かれます。このため新しい経営方針を決める際や中長期経営計画を策定する際に、株主への根回しに多大なエネルギーとコストを浪費しているケースが少なくありません。こうした場合、多角化した事業整理をすることで、意見が分かれている株主の整理も可能になります。

不採算事業等の分離と中核事業への経営資源集中をしやすい

収益性が低い事業、不採算事業、今後の成長が見込めない事業の分離が容易になります。また、これらの事業分離により中核事業への経営資源集中が容易になります。

 

一方、吸収分割のデメリットは次の通りです。

M&A税務に関する豊富な専門知識が必要

事業承継に伴う有形固定資産・無形固定資産、人材などの移転手続きにおいては、税務上の適格・非適格要件の的確な判断が必要になります。この判断には「M&A税務」に関する豊富な専門知識が必要なります。決算会計を専門にしている公認会計士や税理士以外の専門家のアドバイスを受ける必要があります。

キャッシュを得られない場合がある

事業承継の対価として、事業承継会社から非公開株式の割当てを受けた場合は、証券市場で株式売却ができないので、分割会社は吸収分割によるキャッシュを獲得できません。

まとめ:会社分割は難関M&Aの1つ。選択に迷ったら……

会社分割は業績不振に陥っている企業などの鮮やかな企業再生を可能にします。反面、会社分割の手続きには3〜6カ月かかるのが通例で、実際の手続きと税務処理は非常に煩雑です。このため、会社分割はM&Aの中でもかなり難しい「企業再生と成長戦略のスキーム」の1つと言われています。

したがって会社分割を行う際、それを社内の企業法務スタッフが担当する、公認会計士や顧問税理士に依頼するなども1つの方法ですが、会社分割をスムーズに進めるためには、M&Aの手続きと税務に関する専門知識と経験が豊富なM&Aアドバイザーの支援を受けるのが最善といえるでしょう。

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