中小企業もM&Aで勝ち抜く時代 デューデリジェンスで成功に導く

ビジネス環境の変化は加速しています。人口減少による市場縮小や、労働者不足も顕在化してきています。そのなかで、自社の強みを拡大する、弱点を克服する、商圏を広げる、下請け企業から脱却する、海外へ進出するなど、経営テーマも多岐にわたるようになりました。これらの解決策としては自社の既存リソースで対処する方法のほかに、企業外の既存事業を買う方法としてM&Aが考えられます。M&Aで重要なのは対象企業の選出と評価ですが、対象企業の評価をする際に必要な手法となるのがデューデリジェンスです。デューデリジェンスについて、概要とM&Aにおける活用ポイントを解説します。

中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状

M&Aといえば海外や大手企業の話というイメージがあるかもしれませんが、実際はどうなのでしょうか。まずは中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と今後の展望について見てみましょう。

M&Aの件数推移

中小企業庁が公表している株式会社レコフデータ提供データによると、事業承継M&Aの公表ベースの件数推移は、2017年には321件でしたが、2018年には544件と約1.7倍に増え、2019年には1月から9月までですでに431件に達しています。2018年に月平均で約45件だったのが、2019年は約48件(9月末時点)となり、前年を上回りました。

M&Aの背景

中小企業庁の推計によると、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人、うち半数の127万人が後継者未定となります。そのまま放置すると廃業が急増し、累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があると予測されています。こうした環境への対応が必須であることに加え、事業拡大、管理部門やインフラの統合によるコスト効果などへの期待から、今後M&Aの必要性が高まることが予想されます。しかし、東京商工会議所の「事業承継の実態に関するアンケート調査」によると、中小企業・小規模事業者の6割以上がM&Aに後ろ向きであるという結果が出ています。こうした経営者のマインドがM&Aの進まない原因の一端であると想定されています。

M&Aを成功させるためのデューデリジェンスの役割

企業規模の大小にかかわらず、合併・統合によって強い企業になるのがM&Aの目的です。この目的を達成するために、対象企業の事業価値、経営の健全さなどを正しく評価する手法としてデューデリジェンスが求められます。

デューデリジェンスとは

デューデリジェンス(Due Diligence)の「Due」には「するべきこと」、「Diligence」には「努力、勤勉」といった意味があります。「しっかり取り組むべきこと」として、合併や買収の前に相手を適正に評価することを表します。企業は経営者の所有物ではありません。企業には社員の生活を支え、社会にサービスを提供するという役割があり、M&Aに取り組むからには、それを適切に完了させる使命があります。そのためには、一定の手法と基準に則った事前評価のための調査が必要であり、その一連の調査がデューデリジェンスです。

デューデリジェンスをより全体的に知りたいという方は、以下の記事をご一読ください。

デューデリジェンスとは?概要から成功のポイントまでを解説

デューデリジェンスの目的と概要

デューデリジェンスの目的は、M&Aを行うべきかどうかを判定すること、そして客観的なデータや評価基準などによる根拠を持って、買収価格を算出することです。つまり、厳しい評価者の目を持たなければならなりません。

デューデリジェンスの主要な調査項目は、次の6つです。

  • 事業に関するデューデリジェンス:企業の実績や市場環境とその将来性を評価します。統合や合併で自社と一体化した場合のビジネスメリットも見きわめなければなりません。
  • 財務に関するデューデリジェンス:債権や債務のバランス、会計の健全性などを評価します。保有資産の価値を算定し、財務のなかでも重要なキャッシュフローの状況を把握します。
  • 法務に関するデューデリジェンス:各種資産の登記や、事業に関係することがらの許可や届け出がひととおり正しく管理されているかをチェックします。第三者の権利の侵害、過去の訴訟や処罰の有無の精査のほか、将来のリスクも推察します。
  • 税務に関するデューデリジェンス:経理上の不正の有無や経理処理のリスクについて把握し、税法上の税務処理が正しく行われているか、将来課税対象が拡大するかといったリスクを判定します。
  • 人事に関するデューデリジェンス:統合や合併後の人事異動のシミュレーションや、それに伴う退職金や各種手当などの資金見込みの算定を行います。
  • ITに関するデューデリジェンス:統合や合併によるシステム変更のコストやサイバーセキュリティなどに注意を払います。統合・合併先企業の情報セキュリティレベルの診断と、その対策コストも評価します。

これだけの作業を、実施期間約1~2カ月で完了させ、正しく結論を導き出せるより所となるデータを抽出しなければなりません。そのためには、それぞれの調査項目に担当者を振り分け、手分けをして各項目を同時並行で進めていくことになります。これらの作業については、社内ですべてを実施する方法のほか、外部コンサルタント/専門サービス会社へ委託する方法があります。または、社内と外部とで分担して行うことも可能です。

デューデリジェンスの重要性と成功のポイント

短い期間に相手を評価し、M&Aを成功させるため、デューデリジェンスの重要性を十分に理解し、効果的に実行していく必要があります。そのポイントを見てみましょう。

M&Aにおけるデューデリジェンスの重要性

買収価格や買収実施の判定に用いる分析情報を集めることが、デューデリジェンスの目的です。しかし、ここでもう一歩深める意味合いで注意しなければならないことがあります。それは、M&Aそのものの成否が重要なのではない、という点です。つまり、M&Aが行われた後にその効果が事業に表れなければ、M&Aは成功したとはいえないのです。合算した売上規模の大きさではなく、将来に向けて価値の向上が読み取れる企業になれるM&Aでなければならないのです。M&A後に事業が停滞するケースも実際にありますが、その一因としてデューデリジェンスの不足、あるいは失敗があったことも考えられるでしょう。

特に重要な事業に関するデューデリジェンス

先述したデューデリジェンス6項目のなかでも、「事業に関するデューデリジェンス」の重みが特に大きいといえます。会計、税務については、基本的なルールはどの企業にも共通しているため、比較的調査・判定がしやすいでしょう。一方、ビジネス(事業)に関しては市場環境の変化の予測も含め、予測しにくい要素が多いのです。現在価値ではなく将来の姿を予想しながら、M&A後の事業拡大プランについて熟考を重ねておきたいものです。そのためにも、事業に関するデューデリジェンスを入念に行うことが重要といえるでしょう。また、真実を見きわめた結果、M&Aを断念することもありえます。正しい判断を下せたのであれば、デューデリジェンスの役割を果たしたといえるのではないでしょうか。

専門機関を適宜利用

社内に会計や法務の担当者がいて、デューデリジェンスを社内で実施しようとしても、自分の会社以外のこととなると、見えない部分も出てくることになり、正確な診断ができないかもしれません。IT分野についても同様です。また、事業については、市場やビジネスに関して先を見通せるだけの分析力が求められます。そうした難題に直面したときには、分野ごとに外部の専門機関を利用することが、ひとつの選択肢として考えられるでしょう

第三者の冷静な視点こそが、デューデリジェンスの価値

M&Aの成功には、買い手が相手企業やM&A後の将来性を冷静に分析することが不可欠です。そのためのデューデリジェンスは必須であり、かたちだけの業務ではありません。対象企業を正当に判断することに努めなければならないのです。

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