M&Aコラム

M&Aにおける売り手のメリットとデメリットとは?

はじめに

後継者問題など事業承継の解決法として手段を考えたときの選択肢のひとつにM&Aがあると思います。かつては親族へ承継する方法が主流でしたが、近年は第三者へのM&Aを実施することが増えてきています。
しかしM&Aと聞くと複雑なイメージや大手企業同士の話で自社には関係ないと考え選択肢から外してしまうオーナー様も多いのではないでしょうか。今回は、より万全な体制でM&Aの検討をはじめるために、M&Aのメリットとデメリットについて説明していきます。

M&Aを実施するメリット

後継者問題の解決

近年、企業の後継者問題が注目を集めています。弊社でも事業承継の解決策としてM&Aのご相談が増加しております。少子高齢化社会が進むなか、今後も事業承継に関わるM&Aの件数は増加していくものと考えられます。
また、ご子息・ご息女などがいらっしゃる場合でも、後継者には向いていない、ご自身と経営者としての同じ苦労を味合わせたくない、すでに別の道に進んでいるなど、様々な理由から現オーナー様の希望で第三者へのM&Aを希望されるケースも非常に多くなっています。
後継者候補を育成するには5年~10年かかると言われていますので、後継者問題を抱えている企業様は早急に手を打つ必要があります。しかし後継者候補がいない場合、対応を後回しにしてしまうことで、いざという時に廃業という選択肢を選ばざるを得ないこともあります。そうならないためにも早い段階から事業承継について検討を始め、第三者へのM&Aについてアドバイザーに相談することで、自社や従業員を守れるという結果に繋がります。

創業者利益の獲得

オーナー様が保有している自社の株式をM&Aで譲渡をすると売却益を得ることができます。これを創業者利益と呼び、リタイアする際の大きなメリットとなります。
一般的に創業時は一株当たりの株価は低く、事業の拡大や売上げの増加とともに株式価値は増大していきます。より多くの創業者利益を獲得するためには、事業が好調で売上げが高い成長期~成熟期のタイミングで売却することが一番です。
売却のタイミングを逃し、業績が悪化してから売却の検討を始めると、株式価値が想定していたよりも低くなってしまうことや、価値が付かないこともありますので注意が必要です。

個人保証の解消

会社の資金を借り入れする際に、ご自身が保証人となっているオーナー様もいらっしゃるのではないでしょうか。事業承継を進めるにあたって個人保証が阻害要因となることは少なくありません。個人保証は、会社を売却したら自動的に買い手企業に書き換えられてオーナー様から解除されるものではありません。個人保証を解消するには、株式を譲渡した相手に保証人を変更する手続きを行い金融機関に応じてもらう必要があります。M&Aによる譲渡が決定したら、早期に金融機関と交渉し、買い手企業に保証人を変更する手続きを行うことで、引退後のオーナー様はリスクなく引退することができます。

従業員の雇用維持

企業は事業承継がうまく進まなければ最終的に廃業を選択せざるを得ません。その場合、従業員は職を失ってしまうことになり、大きな負担をかけることになります。
親族内・親族外を問わず、後継者候補がいない場合には、第三者によるM&Aで事業承継を実施することにより従業員の雇用を守ることができます。

M&Aを実施するデメリット

経営の意思決定権が買い手企業に移る

M&Aによる譲渡を実行した場合、売却後はオーナー様自身の意思だけで経営に関する事項を決定できなくなります。主に経営方針や人事・目標利益や予算などは、ある程度買い手企業の意向に従うことになるでしょう。
しかし経営方針など重要な部分に第三者が介入することは、自社をさらに成長させるチャンスとも言えます。

取引先や顧客の反発

M&Aを実施した際に取引先や顧客から反発される可能性は少なくありません。オーナー様のお人柄や企業間の信頼で取引をしていた場合、経営する企業が譲受企業に変わってしまうことで不信感を抱かれ、契約を打ち切られてしまうことがあります。
M&Aを実施する経緯などを取引先や顧客に丁寧に説明することで、多くの場合は不信感を払拭し契約を継続してもらうことができますので、事前に取引先や顧客との関係性を整理しておくことが大切です。

想定していた価格で譲渡できない

M&Aを実行する際、買い手企業と譲渡価格について交渉することになります。譲渡価格は、売却対象となる企業の収益の将来性が基準となります。そこで算定された価格をもとに両社同士で交渉し最終的な価格を決定します。
シナジー効果が期待されるなどの理由でオーナー様ご自身が想定していたよりも高い譲渡価格になることもある一方で、第三者の目で企業価値評価をすると低く評価されてしまうことも少なくありません。
そうならないためにM&Aの検討を始めた初期の段階で負債を減らしておく、未払い賃金などの清算を済ませるなど、事前に対応しておくことで低い評価を避けることも可能です。
買い手候補が決まるとデューデリジェンスの対応などM&Aに関する業務負荷が重くなる、ゴールが見えたことによる安堵感で本業が疎かになるなどにより、業績が下がることが稀にあります。譲渡価格が下がってしまう要因となりますので、クロージングを迎えるまでは気を抜かないように注意が必要です。

このように、M&Aを実行する際には売り手側企業にメリットとデメリットの両方があります。実際にこれまでご自身が経営してきた会社を売却し引退するとなると相当な覚悟が必要かと思います。
メリットとデメリットを知り、自社のリスクを認識し事前に対策を練ることで有利なM&Aにつながります。まずは気軽に早い段階でアドバイザーに相談してみてはいかがでしょうか。
ご自身が健康で体力があり、会社の業績も安定している間に事業承継について検討を始めることが、より豊かな引退後の生活につながります。