M&Aコラム

廃業とは何か?手続きとその他の選択肢について解説

はじめに

東京商工リサーチが2019年1月に発表した「2018年『休廃業・解散企業』動向調査」によると、2018年に休廃業・解散をした企業は4万6724件(前年比14.2%増)。休廃業理由の多くが経営者の高齢化と後継者不在と見られています。しかし倒産と異なり、休廃業した企業の中には業績好調だったにもかかわらず、前述の理由から休廃業の道を選んだケースが少なくないとも言われています。もし自社が廃業しなければならなくなった時、どのような手続きが必要なのでしょうか。また、廃業以外の選択肢はないのでしょうか。

廃業とは何か?

廃業とは経営者の意思で自発的に事業を停止し、会社を閉鎖することです。

例えば株式会社の場合、株主総会で会社解散を決議して事業を停止し、保有資産の売却、在庫処分、債権回収、債務弁済、社員への退職金支払い、会社登記抹消など一連の廃業手続きを経て、会社を閉鎖することになります。

廃業と倒産の違いは、前者が自発的な会社閉鎖であるのに対し、後者は強制的な会社閉鎖にあります。

倒産は、一般的には債務超過に陥って経営破綻し、銀行取引が停止されるなど事業継続が不可能になる事態を指します。この倒産には、会社資産を債権者に分配した後、会社登記が抹消されて会社を強制的に閉鎖させられる「破産」と、民事再生法や会社更生法の適用を受け、会社を閉鎖せずに事業継続を図る「会社更生」の2つがあります。

廃業の主な理由は、例えば『中小企業白書2019年版』によると、「もともと自分の代で畳むつもりだった」が58.5%(重複解答、以下同)でトップ。廃業した経営者の半数以上が事業を次世代へ引き継ぐ意思がなかったことを窺わせています。

次いで、「事業の将来性が見通せなかった」が41.6%で2位、「資質がある後継者候補がいなかった」が19.8%で3位、「事業に引継ぐ価値があると思えなかった」が19.6%で4位、「事業の足下の収益力が低かった」が19.4%で5位となっています。

2位以下の理由の場合は、経営改善、後継者育成、M&Aによる事業承継などに早期から取り組んでいれば、廃業せずに済んだ可能性が高かったことを推測させています。

廃業の手続き

廃業するためには、手続きがスムーズに進行しても3〜4カ月かかります。株主や取引先の反対などで手続きが紛糾すれば1年以上かかるケースもあります。このため、廃業を決断した経営者は社員、株主、取引先などステークホルダの同意取付けを円滑に進めるためにも、綿密な計画を立てる必要があります。

株式会社の廃業手続きは、基本的に次の手順で進めます。

1. 解散の準備

廃業するためにはまず会社を解散しなければなりません。会社解散日を決め、社員、株主、取引先などのステークホルダに廃業する旨を通知することが求められます。

特に社員の場合は突然の解雇になるので、廃業の理由と廃業決断に至った経緯、廃業時期、再就職支援策などを丁寧に説明する必要があります。

2. 株主総会での解散決議

株式会社は、会社法で定められた解散事由がなければ解散できません。自発的に廃業する場合は、過半数の株主が出席した株主総会で特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)による解散承認が必要です。 

3. 清算人の選任

廃業のためには、会社資産を清算する必要があります。このため、会社解散の特別決議を行う株主総会では、清算人も同時に選任するのが通例です。清算人には、責任を負う意味もあり経営トップが選任されるケースが大半です。 

4. 解散・清算人選任登記

会社解散日は、会社解散の特別決議をした株主総会開催日とするのが通例です。そして、会社解散日から2週間以内に管轄法務局で会社解散登記と清算人選任登記を行わなければなりません。

5. 会社解散届

会社解散と清算人選任の登記が完了したら、清算人は管轄税務署、都道府県税務事務所、市区町村役場などへ「解散届」を遅滞なく提出しなければなりません。法人税、法人住民税、法人事業税などの税務処理のためです。解散届には会社解散登記後の謄本添付が必要です。

また、許認可事業を行っていた場合は、管轄許認可庁へ「廃業届」等の提出が必要です。

6. 社会保険関係手続き

会社を解散し、社員を解雇した後は社会保険や雇用保険の変更手続きも必要です。このため、清算人は管轄年金事務所へ「適用事業所全喪届」を提出しなければなりません。

7. 債権者保護手続き

清算人は会社を閉鎖する前に、債務を弁済し、債権者を保護しなければなりません。このため会社解散後、官報への「解散公告」掲載が義務付けられています。

8. 解散に伴う決算報告書の作成

廃業するためには、清算人が会社解散時と清算結了時の2回、決算報告書(清算事務報告書)を作成しなければなりません。解散時の決算報告書には株主総会の普通決議(株主議決権の過半数の賛成による決議)による承認が必要です。

9. 廃業に伴う確定申告

会社の解散・清算に当たっては、次のタイミングで確定申告が必要です。

  • 解散事業年度の確定申告......解散日の属する事業年度開始の日から解散日までの期間を1事業年度とみなし、その期間にかかる「解散確定申告書」を解散日の翌日から2カ月以内に管轄税務署等へ提出し、申告税額を納付します
  • 清算中事業年度の確定申告......解散日の翌日から1年ごとに区切られた期間を1事業年度とみなし、清算事業年度の確定申告書をそれぞれの事業年度終了の日の翌日から2カ月以内に税務署等へ提出し、申告税額を納付します
  • 残余財産確定事業年度の確定申告......残余財産確定日の属する事業年度について、残余財産確定事業年度の確定申告書を残余財産確定日から1カ月以内(その期間内に残余財産の最後の分配が行われる場合は、その行われる日の前日まで)に税務署等へ提出し、申告税額を納付します

10. 債権回収と債務弁済

清算人は会社の債権を回収する一方、会社資産売却などにより会社の債務を弁済します。

なお、債務弁済については、官報への「解散公告」による「債権申出期間」が終了するまでは債務の確定ができないので、債務弁済はできません。

11. 残余財産の確定と分配

清算人は会社の残余財産を確定し、残余財産を株主に分配します。

12. 清算結了決算報告書の作成と承認

清算人は残余財産の分配結了後に「清算結了決算報告書」を作成し、株主総会の承認を受けます。これにより法人格が消滅し、会社を閉鎖したことになります。

13. 清算結了登記

清算人は株主総会の清算結了決算報告書承認日から2週間以内に管轄法務局で清算結了登記を行います。この登記には、清算結了決算報告書と株主総会議事録の添付が必要です。

14. 清算結了届

清算人は清算結了登記が完了したら、管轄税務署等へ「清算結了届」を提出します。この届には清算結了登記後の謄本添付が必要です。また、この届をもって清算手続きが完了し、法的な廃業となります。

廃業には「廃業費用」と呼ばれる費用が発生します。主な廃業費用は次の通りです。

●登記費用

廃業に際しては「解散・清算人選任登記」と「清算結了登記」と、2回の登記が必要です。

●官報公告費用

債権者を保護するための官報公告掲載費が必要です。

●報酬

会社解散・閉鎖手続きを司法書士、弁護士、M&Aアドバイザーなどの専門家に依頼した場合は、その報酬が発生します。

なお、『中小企業白書2019年版』によれば、廃業した会社の37.3%が100万円以上500万円未満、17.6%が1000万円以上の廃業費用を要しています。解散・清算手続きの過程で、上述費用以外に様々な経費が発生していることを物語っています。

廃業にメリットはあるのか?

「労多くして益少なし」といわれる廃業にはメリットがほとんどなく、デメリットが多いとされています。主なデメリットは次の通りです。

●社員を解雇しなければならない

長年自社の発展に貢献してくれた社員を解雇しなければなりません。解雇した社員の再就職先がすんなりと決まれば問題はありませんが、失業期間が長引いたり、低賃金の再就職先しか見つからなかった場合、経営トップは道義的な社会的責任感を追う羽目になります。

●取引先等との人間関係が消滅する

廃業により、経営トップは長年の信頼で築き上げてきた取引先との人間関係がすべて消滅します。同時に社会との関係性も薄れてしまうでしょう。

●会社の資産を買い叩かれる

株主総会で会社解散決議をした瞬間から、会社の資産価値は暴落します。在庫、事業用設備、事業用不動産などの売却においては、相場より低く買い叩かれるのが通例といわれています。

また、それまで蓄積してきた自社独自の技術やノウハウ、ブランド、人脈などの無形固定資産、すなわち「のれん」も価値がなくなり、長年の努力が泡となって消えてしまいます。

さらに、会社清算により手元に残った剰余金に法人税と所得税が課税されます。このため剰余金の手取りが減り、廃業後の生活資金に窮する可能性もあるでしょう。

廃業以外の選択肢

後継者がいない会社の廃業以外の選択肢には、会社売却と事業承継の2つがあります。それぞれの主なメリットは次の通りです。

会社売却

会社売却は、後継者がいない会社の廃業以外の選択肢としても近年よくとられる方法です。 長年手塩にかけて育ててきた自社事業やのれんを継承でき、社員の雇用も守れるのが特徴と言えます。具体的には、

  • 自分の周りに適任と思える後継者がいなくても、事業継続ができる
  • 社員の雇用を従来と同じ処遇で守れる可能性がある
  • 会社売却益を経営者が獲得でき、退任後の生活資金に困らない可能性が高い

――などのメリットが挙げられます。

事業承継

事業承継は親族承継と親族外承継に大別されます。

●親族承継

親族がいる場合によくとられる方法です。経営者にとっては血縁の安心感があるようです。この他、

  • 経営者とその家族は創業家としての地位を保持できる
  • 社員や取引先の合意を得やすい
  • 後継者を早期に決定しやすく、後継者教育に十分な時間を掛けられる

――などのメリットが挙げられます。

●親族外承継

血縁関係のない役員や社員から後継者を抜擢し、事業承継する方法です。自社の事業特性、社風、企業文化などに精通しており、会社求心力も強いので、後継者としての適格性判断にあまり狂いが生じない、後継者教育にさほど時間がかからないなどのメリットが挙げられます。

親族外承継の場合、社外から適任者をヘッドハンティングし、事業承継するケースもあります。近年よく見られる方法です。

具体的には取引銀行や親密取引先の中から経営者としての資質がある人材を発掘し、次期社長としてヘッドハンティングする方法です。

まとめ:廃業を決断する前に

廃業した企業の多くは経営不振に陥っていた訳ではなく、逆に業績が好調だった企業も少なくありません。事業承継の遅れが廃業の大半の理由といえるでしょう。廃業すれば自社の資産価値は著しく低下し、清算の後は負債だけが残ってしまうケースも珍しくありません。さらに、廃業には非常に煩雑な手続きと対価のないコスト(利益創出に繋がらない後ろ向きの経費)がかかります。

このため、廃業を決断する前に会社売却、事業承継などの「廃業以外の選択肢」も探るのが、経営者にとっては後顧の憂いなきハッピーリタイアへの道といえるでしょう。