M&Aコラム

デューデリジェンスとは?概要から成功のポイントまでを解説

はじめに

日本の企業は名の通った大企業から下町にある中小零細企業まで、多くの課題を抱えています。なかでも中小零細企業の場合、後継者不足の問題は大きいでしょう。また、少子高齢化で市場規模が縮小していることから、売上や利益の拡大・維持に苦労している会社は少なくないはずです。こうした状況下では、新規事業の立ち上げにも商圏の拡大にも、人手や経験、技術力などが必要になります。そこで、解決方法のひとつとして、企業の経営規模にかかわらず注目できるのがM&Aです。もちろん、企業同士が一緒になれば必ず問題が解決するわけではありません。双方が持つ事業資産や人材などのリソースが相乗効果を発揮することが重要です。M&Aを成功させるために、相手企業との相性の診断から厳格な評定までを行う手法として、デューデリジェンスがあります。デューデリジェンスの概要から成功のポイントまでを解説します。

デューデリジェンスの本質を理解することが大切

まず大切なのは、デューデリジェンスの本質を理解することです。デューデリジェンス業務の仕事量は相当多いので、目的を明確化しておくとその後の作業が効率化できます。

デューデリジェンスとは

デューデリジェンスは、「M&Aのように合併や統合時に相手方を調査するにあたり指標となるもの」です。デュー(Due)は「するべきこと」、デリジェンス(Diligence)は「努力、勤勉」などの意味があり、合わせて「しっかり取り組むべきこと」というニュアンスを持ちます。相手を評価する際の取り組み姿勢の大切さを表す言葉だと考えられます。

デューデリジェンスの目的とは

デューデリジェンスの目的は、合併や統合の相手先を適正に評価することです。当然のように聞こえますが、ビジネス環境は日々変化し、将来にどのような状況が待ち受けているかわかりません。現在価値のみならず、将来の可能性も視野に入れて価値を判定する必要があります。最終的には、M&Aを行う場合の金銭価値について、根拠を目に見えるかたちに表すことまで行います。デューデリジェンスは、M&Aを実施し成功させることを大前提とした重要な手順のひとつであり、必要不可欠な作業であるといえます。

デューデリジェンスのあり方

「個人的に経営者同士が親しく昔から付き合いがある」、「業界での評価が高い」、「企業としての長い実績がある」といった個人的な関係や表面的な情報は、企業価値の判断基準にはなりません。企業価値の裏付けをするための調査が、デューデリジェンスです。しかし、調査をすれば間違いがない評価データを得られるとは限りません。デューデリジェンスを行う前に過剰な期待を抱き、バイアス(思い込みや思想などで意見や見方が偏っている)が残っていると、正しい結果を導き出せないことがあります。デューデリジェンスに求められるのは、第三者の冷静な視点です。M&Aで買収する主体企業が、第三者の立場で、公正に相手先企業を評価しなければなりません。したがって、正しい知識のもと、データを収集、分析し、評価指標を算定するといった、必要なスキルを用いて実施されたものでなければ、デューデリジェンスとはいえないのです。

中小企業からも求められるM&A、その背景と件数の推移

デューデリジェンスの普及や理解が求められる背景のひとつとして、M&A件数の増加が挙げられます。M&Aというと、大手企業同士や海外企業の話という認識が強いかもしれません。しかし日本では、後継者不足に悩む中小企業が、従業員の生活の安定や、取引先への継続的な商材供給のために、M&Aを選択するケースがあります。もちろん、事業規模や商圏の拡大、商材の強化のためにM&Aが行われる場合もあります。中小企業庁のデータを元に株式会社レコフデータがまとめた結果によると、国内の事業承継M&Aの件数推移(公表ベース)は、2017年には321件でしたが、2018年には544件と約1.7倍に増えています。2019年は1月から9月までですでに431件に達しており、同期間のひと月当たりの件数は約48件で、前年を上回りました(2018年の月平均:約45件)。こうしたデータを見ても、M&Aの必要性の高まりを背景にデューデリジェンスの普及や理解の重要性が増しているといえます。

デューデリジェンスの種類と方法について

それではデューデリジェンスについて種類と実施方法を見てみましょう。

デューデリジェンスの種類

デューデリジェンスにおいては、事業の可能性を追求するだけでも財務内容を分析するだけでもなく、会社と事業のすべてを一度に調べて評価することになります。つまり、その会社の収益源となる「事業(ビジネス)」に関することから、活動の財源となる「財務」、存在や活動の根拠となる「法務」、社会的義務を果たしているかどうかの「税務」、会社の重要なリソースである「人事」、そして企業活動を支援する「IT」についてまでの調査を実施します。企業を構成するすべての重要な機能と役割、その実態や課題などについて、それぞれの評価視点で見ることがポイントになるのです。その際、現在の売上高や技術力、社長の人柄といった視点のみで進めてはなりません。財務ならばその方面の専門家、ITならば合併で生じるシステムの統合までを理解できる人物が、調査や評価を行う必要があります。事業(ビジネス)の評価者は、冒頭で述べたように、将来性まで読み取れるような洞察力が必要です。デューデリジェンスで一番重要なポイントともいえるでしょう。

デューデリジェンスの実施手順

M&Aのなかでデューデリジェンスは手順の一部ですが、M&Aを実施するかどうかの判断材料となるデータを集める、初期の重要な業務でもあります。後に続く手順との関係から、デューデリジェンスは可能な限り短期間で完了することが望ましいのはいうまでもありません。デューデリジェンス期間は、約1~2カ月以内がひとつの目安とされています。以下は、時間の経過とデューデリジェンスの作業内容について流れをまとめたものです。

  1. 案件概要の把握:全体の流れと内容の把握を経て、参加スタッフ間で情報共有がなされます。スタートラインでもあるため、目標やそれを達成する過程での各自のミッションの把握など、齟齬(そご)なく統率されていかなければなりません。
  2. ミーティング、調査範囲のすり合わせ:疑問点や問題点の洗い出しに該当します。不備・不足があると、のちにスケジュールの遅れを伴うので、重要な過程であり、何度も協議する必要が生じる可能性もあります。
  3. 基礎資料の入手手配:対象企業や業界に関わるもので、間接的に収集できる情報は事前に用意しておきます。
  4. 事前分析(デスクリサーチ):既存データの事前分析に着手しておきます。相手企業先の協力がなくてもできる部分は早めに進め、分析を完了させておくことがポイントです。
  5. 調査範囲・手続きの決定:相手企業について調査の範囲と内容などを本格的に決定し、その手配の準備に移ります。
  6. 依頼したい資料のリストを提示:提出してほしい資料の一覧表を相手企業に提出します。
  7. 資料の分析:事前分析の結果と合わせ、提出された資料も含めた分析を実施します。
  8. 質疑応答・インタビュー:資料やデータからだけでは不明瞭な点や、確認しておくべきこと、事実として直接聞き出すべきこと、今後の展望で把握したいことなどについて直接ヒアリングします。
  9. 報告書の作成:修正・加筆を行い、最終的な報告書を作成します。
  10. 最終報告・決定:社内の関係者を集め、報告書をもとにM&Aの実施可否を検討します。

M&Aの場合は、社外はもちろん、社内でも関係者以外には機密の業務として動かねばなりません。そのような状況で、社内のスタッフのみで一連の作業をこなすには限界があります。要所では外部の専門機関の手を借り、専門的なスキルやノウハウを活用する必要性も出てくるでしょう。

デューデリジェンスの手続きや段取りといった流れに関して、以下の記事で詳しく解説しております。興味のある方はご一読ください。

M&Aのデューデリジェンスとは。その方法と流れを解説

デューデリジェンスの実施主体

デューデリジェンスには、すべてを自社のスタッフで実施する完全内製と、外部の専門機関に多くを委託する専門機関主導の方法があります。また、その双方を適度に合わせて時間や労力の短縮を図る第3の方法もあります。財務や法務、ITなどは、それぞれの専門知識を必要とします。社内には各分野の専門部署はあるでしょう。しかし、他社を正しく評価するという場合には、通常業務とは異なるスキルや経験が求められ、外部の専門家の手を借りたほうが、正当な評価を下せる場合もあります。

デューデリジェンスの種類別の調査項目

続いて、デューデリジェンスの種類別に調査する項目について、重要なポイントを紹介します。

事業やビジネスに関するデューデリジェンス

統合や合併の対象企業の市場が将来縮小したり、ライバルに脅(おびや)かされたりする可能性がないとも限りません。特に近年は、テクノロジーの進歩にも注意が必要です。AIの普及により、サービスによってはロボットに取って代わられることもありえます。そのため、企業の現在の実績よりも市場環境とその将来性を評価する必要があります。また、統合や合併で自社と一体化した場合のビジネス上のメリットも判定しなければなりません。現在の価値があまり評価できなくても、持っている技術や特許、今後の事業の方向性などの将来性を見極めることが大切です。

財務状況に関するデューデリジェンス

社内の現金や買掛金などは事業を運営するうえでの血液のようなもの。財務に問題があると、企業経営そのものが立ち行かなくなります。財務に関するデューデリジェンスでは、債権・債務のバランスや会計上の健全性を評価し、有形・無形ともに保有資産の価値算定を行います。なかでも重要なのはキャッシュフローの評価です。現金の不足は会社の運営に直接影響するため、自社の現金資産と合算された後の評価や動きも含めて考えていきます。財務の評価から導き出される収益性と、将来どの程度の収益の継続や拡大が可能かを、事業の展望も含めて算定します。

法務に関するデューデリジェンス

各種の登記や、事業に関係することがらの許可や届け出がひととおり正しく管理されているかを確認します。事業は、関連する法律に準拠して活動しなければならないことが大半です。機器の扱いやサービス提供に特定の許可が必要な場合、必要な届け出が正しく実施されているかどうかを調査しなければなりません。第三者の権利の侵害の有無といったことも明らかにし、過去の訴訟や処罰の有無を確認するほか、将来のリスクも推察することになります。事業分野が多岐にわたる場合や海外に進出している場合には、該当分野の法務に詳しい専門家のデューデリジェンスが必要と考えなければなりません。

税務に関するデューデリジェンス

経理上の不正の有無や、経理上の不正がおこりうる危険性についても知っておかなければなりません。税務処理が正しく行われているかを調査し、課税対象が将来どのように変化するか、また拡大するかどうかも判定します。統合や合併後の税務に関する資産や、予想される利益の評価もシミュレーションすることになります。

人事に関するデューデリジェンス

統合や合併となると、大きな人事異動がともなうことが少なくありません。配置換え、評価や給与体系の変更、変更にともなう異動や退職者への手続きが発生します。退職金支給に備える資金の動きは、収益に影響をおよぼしかねません。また、企業は人材あっての存在ともいえます。どんな経歴の持ち主がいるか、スキルや育成の方法はどのようなものか、組織に社風がどれくらい影響しているかといったことも把握する必要があります。統合や合併によって、ブランドや社風の変化を理由に退職者が想定以上に出てしまうようでは問題です。人事はデリケートな課題も含む分野になります。

ITに関するデューデリジェンス

今後、ビジネスにおけるITの活用は、ますますその重要度を増します。IT活用の遅れはビジネス活動のさまたげとなります。旧態依然のシステムは、保守やシステム変更時にかかるコストが割高になる可能性があります。近年は、サイバーセキュリティにもよりいっそうの注意を払わなければなりません。統合・合併先の企業の脆弱なセキュリティが突破され、大切な顧客データが漏えいしたら、大きな損害賠償責任を負いかねません。これまで日本の企業では、独自のシステム構築が中心でしたが、現在はサービスでITを利用するクラウド時代を迎えています。これにより汎用性が高まったと見ることができますが、それでも個別の企業の環境で構築された自社システムがそのベースになるでしょう。したがって、統合や合併によるシステム変更のコストも重要な観点になります。

以上、6つのデューデリジェンスの調査項目について述べましたが、業種や業態、企業によってはそれぞれをさらに区分して深掘りすることや、7つ目の調査が必要になることがあります。例えば、「事業(ビジネス)」とは別に「技術」という視点で、商品の製造やサービスの提供にあたり、どのような技術を保有しどう生かしているということや、その将来性や応用性などを予想する場合もあります。こうしたケースでは、弁理士のスキルが求められ、調査にはかなりの時間を要することがあります。デューデリジェンスの調査項目は、100社100様となると考えておいたほうがいいでしょう。

こちらの記事では項目と併せて、実施上の注意点や課題を詳しく解説しております。ご興味のある方はご一読ください。

デューデリジェンスの種類と項目、実施手法、その注意点を解説

M&Aとデューデリジェンスの関係性

デューデリジェンスの最大の目的であるM&Aを成功させるためには、どのような視点での調査や心がまえ、スキルなどが求められるのでしょうか。

M&Aそのものが目的なのではなく、その後の事業拡大が大切

ビジネスの環境は常に変化しています。M&A後に環境が変わり、合併の効果が期待できなくなるだけではなく、大きなマイナスとなる危険がないとも限りません。そのため、M&Aは現在ではなく、将来を見据えたものでなくてはなりません。将来に向けてのビジネスの可能性を厳格に評価し、シミュレーションをするといった点で、デューデリジェンスは、M&Aの成否の決定にもっとも重要な位置を占めるといえるでしょう。税務や法務のように、どの会社にも共通した規定があるわけではありません。事業(ビジネス)はその分野の専門家や経験者でなければ、正確な判断や将来の予測は難しいと考えておかなければなりません。

M&Aの根拠となるもの

デューデリジェンスは、相手先企業について厳しく評価をするので、日本では礼儀に反する行為のような印象を持たれるかもしれません。しかしデューデリジェンスを省いたM&Aはもちろん、形式的に情報を集めてあたりさわりのない評価を出すような行為は、デューデリジェンスの精神に反するものです。結果として、買収後のリスクとして後に顕在化しないとも限りません。なかには、M&A後に事業で問題が発生したケースもあるのです。そのような場合は、事前の調査と評価を行うべきデューデリジェンスが不足していた可能性があります。

デューデリジェンスは、M&Aの根拠を客観的に示すデータでなければなりません。デューデリジェンスの結果によっては、M&Aを見送るという決断もありえます。客観的なデータをもとに決断を下せたならば、デューデリジェンスの存在意義があったと評価できます。正しく判定することを、躊躇(ちゅうちょ)してはいけないということです。

デューデリジェンスの実施者

デューデリジェンスにはビジネスやITなどの分野で専門的な調査能力が必要なこと、約1~2カ月の間にすべてを実施するのが理想的なこと、第三者の視点で正しく公正に判定する必要があることなどを説明しました。デューデリジェンスを実施する際は、自社の社員のみで完結する方法(内製化)と、外部の専門機関に委託する方法(外注化)のほか、その双方を必要に応じて使い分け分担して進めていく方法があります。パートナーとして専門機関やサービス会社を利用する場合は、選定に一定の時間を要します。最終的に利用するかしないかにかかわらず、いくつかの機関や会社に事前に相談しておくのもひとつの方法です。すべてを自社内で行った場合には、「費用の発生を抑えられる」、「ノウハウが社内に残る」といったメリットがあります。しかし、デューデリジェンスの作業は慣れない仕事であることが多く、しかも短期間に終わらせなければなりません。また、その間は本業に従事する時間が減ることにもなります。一方で委託の場合は、委託費が発生しますが、専門家のスタッフが加わることになり、なによりも重要な第三者としての冷静な視点が加わるというメリットがあります。 デューデリジェンスとM&Aの関係については、以下の記事で詳しく解説しております。興味のある方はご一読ください。

中小企業もM&Aで勝ち抜く時代 デューデリジェンスで成功に導く

M&Aには必須のデューデリジェンス

デューデリジェンスにおける調査不足によって、事業拡大のためのM&Aであるにもかかわらず、負の資産を受け入れてしまうことにならないように十分注意したいものです。会社は経営者だけのものではありません。従業員や株主、そして取引先などのステークホルダーに対する責任として、事業を継続させていかなければなりません。すべての企業は、社会的な責任を負っています。M&Aのような一大プロジェクトを行う場合、期待ばかりに意識を奪われず、冷静に第三者の目で相手先とM&Aによる効果を判定しなければならないのです。