M&Aコラム

これだけは押さえたい「株主間契約のしくみとM&Aでの機能と役割」(FAQ編)

 前回『これだけは押さえたい「株主間契約のしくみとM&Aでの機能と役割」』のコラムを掲載いたしました。今回は、株主間契約についてご理解をより深めていただくために高橋先生に質問のご回答をいただいております。

【株主間契約に関するFAQ】

Q1:株主間契約は当事者間で任意で締結されるものと理解しています。株主間契約が締結されずに、合弁や資本業務提携が行われた場合、どのような問題が生じますか。

Q2:株主間契約の締結は、一部(100%ではない)の株式譲渡が行われた場合に、付随的に必要性が生じることもあります。実際の具体的なタイミングは、株式譲渡契約の関係上、株式譲渡契約締結やクロージングの前・後・同時などいつ締結することが望ましいでしょうか(もしくは通常でしょうか)。

Q3:株主間契約はどのような場合に終了するのでしょうか。特に、株式の売却・譲渡による地位の変動、M&Aによる支配権の変更又は一定期間の経過など、終了事由として盛り込むべき事項とそれぞれの事由がもたらす影響について教えてください。

Q4:合弁相手又は自社の既存株の「コールオプション」「プットオプション」について、行使価格の決定は計算式を合意することが望ましいようにも思います。一方で、合意に至るのは難しいようにも思います。それだと条項の機能としては緩いとは思いますが「協議の上決定」ということが多いのでしょうか。


Q5 : 「3(3)取締役会に関する事項」にて、株主間契約で取締役会の定足数や決議要件を加重する旨を規定することもあるとありますが、この規定は定款への記載も必要になりますでしょうか。

Q6:A社(51%)、B社(49%)が株主である合弁会社の一方(例えばA社)の持ち分を買収した場合、株主間契約は自動的に承継されるのでしょうか。

Q1:株主間契約は当事者間で任意で締結されるものと理解しています。株主間契約が締結されずに、合弁や資本業務提携が行われた場合、どのような問題が生じますか。

 A:各株主が、会社法上認められた株主としての権利を有することとなりますので、問題が生じるわけではありませんが、支配株主側が数の論理で対象会社の経営を支配できることになりかねないため、株主が共同して対象会社を経営するという、合弁や資本業務提携の本来の目的を達成できない可能性があります。

Q2:株主間契約の締結は、一部(100%ではない)の株式譲渡が行われた場合に、付随的に必要性が生じることもあります。実際の具体的なタイミングは、株式譲渡契約の関係上、株式譲渡契約締結やクロージングの前・後・同時などいつ締結することが望ましいでしょうか(もしくは通常でしょうか)

 A:株式譲渡後の対象会社の経営に関する条件も含めて、売手・買手共に株式譲渡自体を行うか否か、行う場合の株式譲渡の条件をどのようにするかを判断するのが通常ですので、一般的には、株式譲渡契約の締結と同時に株主間契約も締結し、株式譲渡のクロージングが行われることを株主間契約の効力発生条件とすることが多いと思います。

Q3:株主間契約はどのような場合に終了するのでしょうか。特に、株式の売却・譲渡による地位の変動、M&Aによる支配権の変更又は一定期間の経過など、終了事由として盛り込むべき事項とそれぞれの事由がもたらす影響について教えてください。

 A:一般的には、両当事者が合意した場合、一方当事者が対象会社の株主ではなくなった場合や、対象会社が解散した場合などを終了事由として規定することが多いと思いますが、対象会社の株式公開を終了事由とするケースもあります。

Q4:合弁相手又は自社の既存株の「コールオプション」「プットオプション」について、行使価格の決定は計算式を合意することが望ましいようにも思います。一方で、合意に至るのは難しいようにも思います。それだと条項の機能としては緩いとは思いますが「協議の上決定」ということが多いのでしょうか。

 A:買取価格で揉めるケースは多いため、単に協議の上で決定すると規定するケースは少ないように思います。ある程度客観的に決まる規定を設けておくことが望ましく、例えば、①取得価格、②直近の新株発行又は株式譲渡の価格、③直近の貸借対照表上の純資産基準で算定した価格、④第三者である専門家が算定した公正な価格のうち、最も高いものとする場合などがあります。

Q5 : 「3(3)取締役会に関する事項」にて、株主間契約で取締役会の定足数や決議要件を加重する旨を規定することもあるとありますが、この規定は定款への記載も必要になりますでしょうか。

 A:定款に記載することも可能ですが、記載せずとも株主間契約の当事者間においては有効です。但し、定款に記載された場合にはこれに違反した決議は無効であるのに対し、定款に記載されない場合には契約違反となるに留まります(本文2(2)をご参照ください)。

Q6:A社(51%)、B社(49%)が株主である合弁会社の一方(例えばA社)の持ち分を買収した場合、株主間契約は自動的に承継されるのでしょうか。

 A:株主間契約は、株主であることを前提にした契約ですが、その契約上の地位は、あくまでも株式とは切り離されたものですので、株式を取得しただけでは承継されません。もっとも、株主間契約において、一方当事者が株式を第三者に譲渡する場合に、当該当事者に対し、譲渡先に株主間契約上の地位を承継させることを義務付ける規定を設けるケースはあります。

ソシアス総合法律事務所弁護士

高橋 聖

【目次】にもどる