M&Aコラム

株式譲渡における税金の種類と注意点を徹底解説

はじめに

近年、後継者問題に悩む中小企業を中心に企業間のM&Aが頻繁に行われるようになっています。その中でも、株式譲渡と呼ばれるM&A手法は他の手法に比べると手続きも少なく手軽に行えることから、よく行われています。本稿では株式譲渡とはどういうものなのか、また株式譲渡を行った場合に発生する可能性がある所得税や住民税、法人税などについてご説明します。

株式譲渡とは?

株式譲渡とは株式の売買により経営権の譲渡を行うM&A手法です。一般的に企業の株式は過半数を所有することで経営権を掌握することができ、取締役や監査役の選任、また役員報酬の決定など企業の重要事項を単独で決めることができます。さらに株式を3分の2以上所有すると、特別決議によって決める必要のある企業の根幹の部分まで単独で決定することができるようになります。そのため株式譲渡によって売り手側が所有する株式を買い手側に売却することで、事実上の経営権の譲渡を行うことが可能なのです。 数あるM&A手法の中でも、中小企業において株式譲渡が多用されている理由としてその取引の簡便性があります。売り手と買い手の間で株式譲渡における金額に合意がされると、株式譲渡契約書(SPA)が締結されます。その後は合意された金額の支払いと株主名簿の書き換えだけで経営権の譲渡が完了するのです。他のM&A手法では役所などや法務局への手続きもあり、大きな労力を必要とするため、簡単に手続きを終えることができる株式譲渡が多用されているのです。

ただ、株式の売却により税金については売り手側が個人か法人かによってその計算方法も変わってくるため注意が必要です。次項で詳しくご紹介しましょう。

株式譲渡に課税される税金の種類と計算方法

株式譲渡には申告分離課税として税金が発生し、売り手側が個人か法人かによって税金の種類と金額が変わってきます。

個人の場合

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売り手側が個人の場合、譲渡所得に対し20.315%の税金が発生します。株式譲渡により買い手から代金をもらうことになるのですが、この獲得した代金全てに税金が発生するわけではありません。売却代金から手数料や名義書換などが含まれる取得費や、M&Aアドバイザリーに支払う仲介手数料などを含むM&Aにかかった費用(譲渡費用)は税金の対象外です。そのため、売却代金から取得費や譲渡費用といった各費用を差し引いた金額を譲渡所得と定義し、税金の対象としています。

譲渡所得に発生する税金20.315%には所得税と住民税が含まれています。内訳としては所得税が復興特別所得税0.315%を含む15.315%、住民税が5%です。復興特別所得税とは平成25年から導入された東日本大震災の復興財源を確保する目的で課税されるようになった税金で、令和19年まで続く予定です。

法人の場合

法人の場合は、税金の対象となる金額を譲渡所得ではなく譲渡益と定義した部分に法人税が発生します。譲渡益は売却代金から株式の所得費用や譲渡経費を差し引いた金額と定義されており、税金の対象としています。法人税の税率は法人によって異なるので一概には言えませんが、一般的には30%程になります。  

株式譲渡で発生する税金の注意点

 株式譲渡により発生する税金について注意すべき点をご紹介します。

納付期限の差

個人で株式譲渡を行った場合、所得税と住民税が発生する旨ご紹介しましたが、その納付期限には差があります。復興特別所得税含む所得税は株式譲渡を行った翌年の3月15日まで、確定申告の際に納税します。一方住民税は確定申告を行った年における4月から5月ごろに納付書が送られてくるので、納付書に記載された期日までに納税しなくてはいけません。納税は一括か4分割か選べるので、その時の資金状況により判断しましょう。

個人間の株式譲渡により発生する税金

売り手には譲渡所得に対し税金が発生する旨ご紹介しましたが、買い手には税金は発生しません。ただし親族への株式譲渡の場合は注意が必要です。株式を時価で譲渡した場合には通常の個人間のやり取りとして売り手には税金が発生し、買い手には発生しません。しかし時価の半分未満で譲渡すると買い手にも時価との差額に贈与税が発生し、無償で株式譲渡した場合には時価に対する贈与税が発生します。また、相続税に該当する場合、買い手の取得額に対する10%から55%が税金として課税されます。親族に株式譲渡する場合には、買い手側にどれだけの税金が発生することになるか、事前に調査しておきましょう。

株式譲渡は手軽に行える半面、注意も必要

ここまでご紹介してきた通り株式譲渡は、株式の譲渡のみで経営権を譲渡できる手軽さから最も行われています。一方でリスクが潜んでいることも意識しなければなりません。今回ご紹介した税金面もそうですが、事前に対処することでリスクを回避することができます。株式譲渡する際は入念に事前準備をして挑むようにしましょう。