M&Aコラム

EV/EBITDA倍率とは?その内容と計算方法

はじめに

EBITDAをM&Aや企業価値評価に適用する場合、よく使われるのがEV/EBITDA倍率です。

EVとは事業価値、あるいは企業価値を意味します。EBITDAをEVと比較することにより、その企業の価値がその収益力の何倍であるか、そして収益力に対して価格が割高か割安かについて、複数の会社で比較できます。この指標は、M&Aに関わる方であれば、常に意識する数字です。また、EV/EBITDA倍率は、株式市場での株価についても評価できます。ネットの情報サービスにおいても、株価情報とともにEV/EBITDA倍率を提供しているケースもあります。ここでは、EV/EBITDA倍率について見ていきましょう。

EVとは何かを知る

まず、EVとは何かを定義し、その計算方法を示します。その後、EV/EBITDA倍率の計算方法について説明し、その有用性について検討します。

EVの意味

EVはEnterprise Value(エンタープライズバリュー)のことで、日本語では通常「企業価値」または「事業価値」と訳されます。この指標は「この企業を買うとしたら、負債を含めた全体でいくらの価値になるのか」ということです。あるいは、「株主に帰属する価値と債権者及び少数株主に帰属する価値の合計」と言い換えることもできます。この価値は、ビジネスから得られる価値全体を指すので、どちらかといえば「事業価値」のほうが正確ですが、「企業価値」という言い方もよく使われています。これは株式の価値と純負債の価値の合計で導かれます。

EVの計算方法

EVは、以下の式によって計算されます。

EV = 株式時価総額 + 有利子負債 - 現金及び現金同等物 + 少数株主持分

EVを計算するということは、すべてのステークホルダーに属する価値について考えることになります。そのため、株式の価値だけでなく、負債の価値も考える必要があります。ただし、現金および現金同等物については、そのまま(あるいは換金して)負債の返済に回せるので、その分は負債の額から差し引いた「純有利子負債」(ネットデット)を計算します。ちなみに、現金および現金同等物が負債より大きい場合は、ネットキャッシュと言われます。この場合、ネットデットとは逆に、株式の価値からマイナスします。この場合には、EVの計算方法は

EV = 時価総額 ― 純現金同等物 (=現金同等物総額 - 有利子負債総額)+ 少数株主持分

となります。

極端なケースとしては、負債が少なく(あるいは無借金状態で)現金同等物が豊富な場合、株価が低い上場企業においてはEVがマイナスになってしまうことがあります。この場合、株価が事業からのキャッシュフローを反映していない、ということになります。株式の分布状況によっては、敵対的な買収の恰好のターゲットともなり得ます。

EV/EBITDA倍率の定義とその利用法

さて、企業価値が割安か割高かを測る手法としてEV/EBITDA倍率という指標があります。これは文字どおり、EVをEBITDA で割って得られる比率の数字です。

M&Aを検討するときや企業価値評価を行う際には欠かせない数字ですので、計算方法だけでなく、その意味や使い方についても見ていきましょう。

EV/EBITDA倍率の計算方法

EV/EBITDA倍率の計算方法は上述のとおりで、EVをEBITDAで割ることによって求めます。

EV/EBITDA倍率 = EV ÷ EBITDA

となります。倍率ですので、単位は「倍」となります。

たとえばEVが50億円、EBITDAが10億円の会社の場合、EV/EBITDA倍率は

50億円 ÷ 10億円 = 5.0 倍となります。

EV/EBITDA倍率計算時の留意点

EV/EBITDA倍率を計算する際に留意すべき点として、「いつの時点のEBITDAを使うのか」ということがあります。たとえば、「直近年度の実績EBITDAを使用する場合」「過去数年の平均をとる場合」あるいは「予想のEBITDA を使用する場合」などがあります。予想がしっかり立てられる場合には予想数字を使用することも考えられますし、実績を重視するなら過去の平均を使うことも考えられます。一方、過去の実績EBITDAを使いながらも、将来的にEBITDAが伸びていくことを前提にして、EV/EBITDA倍率が高くても買収可能と判断するようなアプローチもあります。「何年間のキャッシュフローで投資を回収できるか」というのがもともとの概念だとすれば、将来のキャッシュフロー予想を使うほうが適切なケースも多いとも考えられます。

EV/EBITDA倍率の有用性

この比率は、「投資した金額が、対象事業のキャッシュフローの何倍であるか」を表します。言い換えると、「投資した金額を事業のキャッシュフローで回収するのに何年かかるか」という考え方だとも言えます。これは、M&Aの際の投資価値の評価の基準として使われます。同業であれば、国際比較もある程度意味を持ってきます。「同業界において、海外でのM&Aの水準が日本と比較して高いか低いか」という考察も可能ですし、「これから買収を考える場合に、出せる最高の金額はいくらまでか」という判断をするための指標のひとつともなり得ます。

また、上場企業の株価水準の評価基準として使われることもあります。EV/EBITDA 倍率が低い会社であれば、株価が割安と判断されます。将来的にその水準が訂正されると思えば、投資対象として魅力的になります。また、買収のターゲットともなり得ます。ただし、上場企業の株価は、市場で売買する価格でしかありません。もし支配権を持つほどの比率を取得したい場合には、市場価格よりプレミアムを付けて、公開買付け(TOB)を行う必要があります。その場合には、プレミアムを乗せた価格で計算したEV/EBITDA倍率が適正かどうかを検討します。

標準的なEV/EBITDA倍率の水準はどれくらいか

計算して得られた値が割安か割高か。それを判断するためには、一般的にどれくらいの数字が標準的かということを頭の中に入れる必要があります。ただし、この水準は一概に「これくらい」とは言えません。例えば業種による違いがありますし、会社の規模によっても異なります。そして、会社の成長性によっても異なってきます。なぜなら、この計算で使うEBITDAはあくまで単年のものであり、翌年以降に急増するような場合には、実績EV/EBITDA倍率では高く感じられても、予想の数字を使うと納得できる水準であったりするからです。

また、M&Aにおいては、買収の後にも追加で費用がかかるようなケースもあり、そういう場合にもEV/EBITDA倍率は異なってきます。

上記を念頭においたうえで一般論をいえば、通常の目安としてはEV/EBITDA倍率は5~10倍程度と言われます。10倍を大きく超えるようなケースも散見されますが、その場合には買い手がかなり強気か、大きなシナジーを見越していると考えられます。

EV/EBITDA倍率の限界

もちろんこのEV/EBITDA倍率にも限界があります。当初述べたようにEVがマイナスになるような企業では、割安であることには間違いありませんが、倍率がマイナスになるので、他社との比較には向きません。もう一つの問題は、EBITDAがマイナスのときにも使えないということです。とある事情で赤字になっているような場合、償却の金額によってはEBITDAでもマイナスになるケースがあります。EBITDAがマイナスの場合には、この指標は使えません。この指標は、何年間のEBITDAで投資(企業価値)を回収できるかを示すものだからです。もちろん、このような場合には、プラスの予想EBITDAを使って計算するなどの対応をとることになるでしょう。ただ、いずれにしても企業価値評価においてEV/EBITDAが唯一無二の尺度ではないことは理解しておく必要があるでしょう。

まとめ

ここではEV/EBITDA倍率の意味、計算方法、使い方について見てきました。

M&Aを行う際に、「対象となる企業や事業をいくらで買えばいいか」ということを考える際の一つの指標として活用してみてください。また、M&Aでなくても、株式投資をする際に、その会社の株価が、EV/EBITDAで考えると何倍くらいになっているかを見て、投資の参考にしてみてください。

※EBITDAをより全体的に知りたいという方は、以下の記事をご一読ください。

初心者にもわかるEBITDA 完全解説