M&Aコラム

M&Aを成功に導くためのDDにおけるスコープ設定の重要性について(FAQ編)

 前回『M&Aを成功に導くためのDDにおけるスコープ設定の重要性について』のコラムを掲載いたしました。今回はDDスコープ設定の重要性についてご理解をより深めていただくために水谷先生に質問のご回答をいただいております。

【DDスコープ設定の重要性に関するFAQ】

Q1:DDスコープを決めるのは、買手であり、買手担当者がM&Aに不慣れな場合又は保守的な場合、『全般的にリスクを洗い出して欲しい』と依頼されるケースが多いと思います。実務レベルでDD専門家がスコープのアドバイスをするのでしょうか。それともFAがスコープのアドバイスをするのでしょうか。

Q2:(DDスコープの設定とは趣旨が異なりますが)
これまでM&Aを行ったことがないため弁護士等の専門家に相談し、起用するタイミングが分かりません。DDに入る前のどの時点で相談しておくべきでしょうか。


Q3:買い手側のリスク許容度がどのようにスコープに影響を及ぼすのかご教示ください。

Q4:2〜3週間という短期間で資料レビュー、現地調査、経営者インタビューまでを完了しなければなりません。この短期間では網羅的な資料の準備が困難であり、仮に用意できたとしても、それらを十分に精査する時間が不足してしまいます
→上記のような場合、DDスコープを補完して対応(経営者インタビュー、オンサイトDD拡充など)するものかと思いましたが、DDスコープの補完例で、他に知っておくべき手段があれば教えて頂けますと幸いです。


Q5 : 財務DDのスコープの相談に際して、どのような情報があると具体的で質の高い(手戻りが少ない)議論が可能でしょうか。

Q6:財務・税務DDのスコープにあたって、1次LOI前、MOU前に参考にした株価シミュレーションをどのように、スコープ検討の材料にしますか?

Q7:財務・税務DDのスコープにあたって、2次LOI前の株式価値算定書を作成する算定会社(FAなど)との連携はどのような観点で行われますか?

Q1:DDスコープを決めるのは、買手であり、買手担当者がM&Aに不慣れな場合又は保守的な場合、『全般的にリスクを洗い出して欲しい』と依頼されるケースが多いと思います。実務レベルでDD専門家がスコープのアドバイスをするのでしょうか。それともFAがスコープのアドバイスをするのでしょうか。

 A:前提として、一般的なデューデリジェンスにおいては全体像の把握しながら実施されるため、金額的に重要性が低いものを除けば、ディールに影響する可能性のある項目については、全般的なリスクの洗い出しをするつもりで手続きを実施しています。一方で、金額的に僅少な項目や、一般的にM&Aで問題とされない項目については、暗黙的に手続きを省略しています。

それでも短期間でリソースが限られる中、必要なリスク項目を網羅的に洗い出すことは難しいと考えらえるため、スコープを絞るという考え方があるということをご理解いただければと思います。

ビジネスに関しては、買手担当者様が熟知されているため、リスク感度が高いことを理解しております。ビジネス上の論点をご共有いただくことで、不安に感じている事項や詳細に知りたい点が判明し、それらがリスクの高い項目であり、意思決定のための情報価値が高いと認識いたします。専門家はこれらを考慮し、リソースおよび期間を勘案したうえでスコープを設定し、買手担当者様のご不安を解消できるよう適切なデューデリジェンスを実施することが可能となります。

Q2:(DDスコープの設定とは趣旨が異なりますが)
これまでM&Aを行ったことがないため弁護士等の専門家に相談し、起用するタイミングが分かりません。DDに入る前のどの時点で相談しておくべきでしょうか。

 A:FAがいる場合には、FAにご相談いただくのが良いでしょう。FAを起用しないケースでは、案件への取り組みが確実でなくても、入札前やLOIの内容を検討する段階など、案件に取り組む可能性が高まってきたタイミングで専門家に相談すると効果的です。

情報が少ない段階だからこそ、専門家による懸念点や意見を聞くことが今後の進め方を考える上で有用です。専門家側もDDに取り組むことになれば、リソースを想定しておく必要があるため、事前に相談することが双方にとって望ましいと考えられます。

Q3:買い手側のリスク許容度がどのようにスコープに影響を及ぼすのかご教示ください。

 A:リスク許容度が高い場合、スコープを限定することで重要性が低い項目の手続きを省略し、DDコストを削減することが可能です。

一方で、リスク許容度が低い場合は、初期段階では広範囲のスコープを設定する必要があります。しかし、時間や売り手、および買い手双方のリソースの制約から、実際には事前に設定したリスク許容度によるスコープ拡大の効果よりも、リソースの制約によってスコープが制限されることが多いと考えられます。その結果、当初設定したスコープ通りの手続きを行うことが難しいケースが頻繁に見受けられます。

結論として、リスク許容度を設定しても、スコープの最大範囲は外部要因によって決定されることが多いです。ただし、譲れないリスク許容度が存在する場合、DD期間を延長し、投入するリソースを増やすことで、両者が対応していく必要性があります。

Q4:2〜3週間という短期間で資料レビュー、現地調査、経営者インタビューまでを完了しなければなりません。この短期間では網羅的な資料の準備が困難であり、仮に用意できたとしても、それらを十分に精査する時間が不足してしまいます。
→上記のような場合、DDスコープを補完して対応(経営者インタビュー、オンサイトDD拡充など)するものかと思いましたが、DDスコープの補完例で、他に知っておくべき手段があれば教えて頂けますと幸いです。

 A:DD期間が短い場合には、経営者や実務者へのインタビューの回数を増やすことでQAの効率化を図ることが有効です。書面でのQAのやり取りには、記録が正確に残るという利点がありますが、一方で手間がかかり、期待した回答が得られない場合もあり、効率が低下する可能性があります。

時間が限られている場合には、インタビューを実施することで会社に対する理解を深め、早期にスコープを絞って質問の無駄を減らし、売り手と買い手双方のリソースを集中させることが効果的です。

Q5 : 財務DDのスコープの相談に際して、どのような情報があると具体的で質の高い(手戻りが少ない)議論が可能でしょうか。

 A:FAがおられれば、差配いただくことが多いですが、IM、プロセスレター、初期QA、これまでの開示資料、1次LOI及び1次LOIの応諾書(またはMOU)、LOI提出時に参考にした株価シミュレーション、2次プロセスのプロセスレター、DD要領、当該案件に関する貴社の会議体予定日などです。(もちろん、可能な範囲でよいですが、情報を具体的に共有頂く方が手戻りが少なくなります)

Q6:財務・税務DDのスコープにあたって、1次LOI前、MOU前に参考にした株価シミュレーションをどのように、スコープ検討の材料にしますか?

 A:別途、FA等の算定会社がいるケースでは、彼らが株価算定の専門家ですので、求められない限りコメントすることはありませんし、そもそも株価シミュレーションを見る立場にないこともあります。

それでも、バリュエーションで必要とされる情報については理解していますので、必要と考えられる情報を網羅したDDレポートを作成します。

バリュエーションの内容を拝見させていただけるケースでは、シミュレーションを見ることでポイントが理解しやすくなることから、特にDCFにおいて前提条件の設定が難しい論点が発生している場合、財務DDでも分析が難しい論点であると把握できますので、優先的に対応するようにスコープを設定します。従いまして、事前にご相談をいただけるケースの方がDDのスコープとしては適切に設定できるものと考えます。

Q7:財務・税務DDのスコープにあたって、2次LOI前の株式価値算定書を作成する算定会社(FAなど)との連携はどのような観点で行われますか?

 A: 算定会社との連携は、算定会社との関係性および状況によって異なります。DDレポートによる報告だけで終了する場合もありますし、DDで指摘された論点が価値算定に影響を与える場合には、前提条件の設定について共同で検討を行うこともあります。算定会社は株式価値算定の専門家であるため、こちらから積極的に介入することは想定しておらず、まずは、必要な情報をDDレポートで提供することを考えています。その後、込み入った論点や会計や税務の専門性が高い部分があれば、一緒に論点を詰めていきます。

結和税理士法人

公認会計士

水谷 匡宏

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